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多汗症の定義
人間の体には汗を出す2つの汗腺があります。それがエクリン線とアポクリン腺です。
エクリン腺はほぼ全身に分布し、体温調節の役割を担っており、成人で1日に200~400ミリリットルの発汗を行います。また、最大発汗時でも1時間に2~3リットル、1日に10リットルもの大量の汗を出すことのできる器官です。
この全身にあるエクリン腺の中でも、頭部・顔面、手掌・足底、ワキといった局所で体温・気温の上昇や、精神的な負荷、またそういった要因によらずに大量の発汗が起こり、日常生活に支障をきたすようになる状態を原発性局所多汗症と呼びます。
多汗症の人数
日本における多汗症で悩む人の規模は、2009年に5807人を対象としたアンケート形式での調査で明らかになりました。
下記の表の通りです。
発汗部位 | 有病率 | 平均発症年齢 |
---|---|---|
手掌 | 5.33% | 13.8歳 |
足底 | 2.79 | 15.9歳 |
ワキ | 5.75% | 19.5歳 |
頭部 | 4.7% | 21.2歳 |
その他 | 2.96% | 21.7歳 |
この数字を日本の人口(1.26億人)に当てはめると、手掌多汗症患者は671万人、ワキ多汗症患者は724万人存在するということになります。
このことから非常に多くの人が多汗症に悩んでいるということがわかります。
多汗症の症状
多汗症の症状は大きく分けて3分類することが出来ます。
それぞれ一つの症状であることや、複数箇所の症状を合併していることもあります。
掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)
幼少期もしくは思春期のころに発症し、手や足の裏から精神的緊張により多量の発汗を伴います。
発汗量は日中に多く、情緒的な刺激により著しい発汗の増加がみられる傾向がある。
睡眠中は脳の活動が低下するため発汗量が減る。
日常生活での症状
紙の書類を手で持つ際に、汗で湿ってしまう、スマートフォンやパソコンなどの電子機器の操作で故障や反応が鈍る。
また、握手などの際に相手に不快感を与える心配など、重度の症状でなかったとしても、自覚症状における日常生活のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)に大きな障害を抱えている。
腋窩多汗症(えきかたかんしょう)
腋窩とは脇の下を指し、左右対称的に下着やシャツに汗じみができるほど発汗がみられ、重度の場合は、一日に何度も下着の取替をする必要があるほどである。
制服を着用したり、対人関係に影響するような職業についた場合、社会活動や精神活動に悪影響を及ぼす。
頭部・顔面多汗症
成人男性に多く見られる。側頭部・後頭部および前額部からの大量の発汗をきたす。
熱い食べ物や飲み物の摂取後や物理的・情動的ストレスをきっかけとして汗がしたたり落ちることがある。
このような多汗は通常数分間で収まる場合もあるが、数時間から1日中続くこともあり、対人関係に支障をきたし、引きこもり状態になることがある。
多汗症の診断
診断の基準
原発性局所多汗症診療ガイドラインでは、局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6ヶ月以上認められ、以下の6症状のうち2項目以上あてはまる場合を多汗症と診断している。
局所性多汗症の診断基準は、日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診療ガイドライン から引用すると、下記の通りとなります。
局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま 6 カ月以上認められ,以下の 6 症状のうち 2 項目以上あてはまる場合を多汗症と診断している。
- 最初に症状がでるのが 25 歳以下であること
- 対称性に発汗がみられること(左右対称に同程度の異常発汗がみられること)
- 睡眠中は発汗が止まっていること
- 1 週間に 1 回以上多汗のエピソードがあること
- 家族歴がみられること(家族や親族に似たような症状の人がいること)
- それらによって日常生活に支障をきたすこと
重症度の判定
自覚症状により重症度を判定する方法と、発汗量を測定し客観的に重症度を判定する2種類の方法がある。
自覚症状により判定する方法
自覚症状により以下の4つに分類し、③・④を重症とする。
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢できず、日常生活に支障がある
さらに各部位ごとの症状のセルフチェックに関しては、下記の記事でご確認下さい。
発汗量測定法
ヨード紙法
ゼロックス紙に対してヨードを加え、紙の変色をみて重症度を測定する方法である。治療効果の判定などに用いられることもある。
引用:皮膚科Q&A 汗の病気 Q6重症度の判定は?
換気カプセル法
専用の機器を用いて、汗を含む空気湿度を湿度センサーで検出し、通常時と発汗時の比較をすることで測定する方法である。
他覚的な診断方法
手足の場足
- 軽症:汗はわずかにきらきらして見える程度
- 中等症:汗は水滴になって見える程度
- 重症:汗はしたたり落ちる程度
ワキの場合
- 軽症:汗は洋服のシミにならない程度
- 中等症:汗は汗わきパッドで洋服のシミに対応できる程度
- 重症:汗は汗わきパッドで洋服のシミに対応不可能で着替えを要する程度
多汗症の治療法
多汗症の治療は複数の治療法があるが、いずれも根本的な完治を目指した治療ではなく、対処療法である。多汗症の重症度や年齢により最適な治療を選択することが重要である。
塩化アルミニウム溶液
すべての部位に使用可能な治療であり、多汗症の治療において第一に選ばれる治療方法である。
年齢を問わず、自宅で出来る治療方法である。
詳しい使用方法は下記記事を御覧ください
イオントフォレーシス療法
主に手足の多汗症に悩む人にのみ効果的な治療方法がイオントフォレーシス療法である。
5~15mAの直流電流を10分〜20分通電し、週1~2回の治療を継続することで、3~6回の治療で効果が認められることが多い。
ボツリヌス毒素製剤
ボツリヌス治療は腋窩多汗症(ワキ)の治療において有効であることが報告されてから、2012年11月より重度の腋窩多汗症に対して保険診療が認められるようになった。ただし、掌蹠多汗症(手足)と頭部・顔面の多汗症では、投与量や有効期間、疼痛コントロールが一定ではなく、保険診療は認めれていない。
内服療法
局所多汗症に対する内服療法としては抗コリン薬がある。日本では唯一、多汗症に対する保険適用が認められる抗コリン薬としてプロバンサインがあり、日常使用が可能である。
しかしながら、高い効果があるというよりも、副作用が小さいため併用療法としての使用や、頭部・顔面多汗症などの治療選択肢が限られる症状に対しての治療第一選択肢となりやすい。
交感神経遮断術(ETS)
ETS手術を行うことにより、局所多汗症は抑えられる可能性が高いが、代償性発汗を合併して引き起こす事例が多く、患者の満足度を下げる要因となる。
ETS手術に関する詳細は下記の記事を御覧ください。