異常なほどの手汗、足汗、ワキ汗などに悩む局所性多汗症患者数は、日本の人口の約5%(約670万人)にも上るといわれていることをご存知でしたでしょうか?
日常生活に支障を感じるほどの汗がでてしまうことは、生まれ持った体質ではなく、れっきとした病気です。適切な治療をうけない限り、症状の改善には繋がりません。
そこで今回は、局所性多汗症の治療方法について、詳細をまとめてみました。
手汗・足汗で悩む筆者自身の治療経験も踏まえ、どのような治療方法なのか、治療のメリット・デメリット、どの程度効果が認められるのかについて説明していきたいと思います。
この記事を通して、あなたに適した治療方法が見つかれば幸いです。
目次
目的別で異なる治療方法
まず初めに、局所性多汗症の治療方法は、どの治療方法にもメリットとデメリットが存在しています。また効果が高い治療方法ほど、副作用が強くでる傾向があります。
予めこの点を理解したうえで、本文をお読みいただけると幸いです。
まず、局所性多汗症の治療方法は、目的別で大きく2つに分けることができます。
- 症状緩和(症状改善)のための治療方法
- 症状完治のための治療方法
多汗症の症状レベルや、本人の悩みの原因、ストレスの大きさによって、治療方法の選択は変わってきます。ご自分の悩みやストレスの大きさに照らし合わせながら、各治療方法を確認していきましょう。
症状緩和のための治療方法
症状緩和のための治療方法とは、多汗症の完全完治の治療ではなく、汗の発汗を抑える治療法を指します。
比較的副作用が少ない治療が多く、多汗症と上手に付き合い、毎日の生活の質を上げるための治療方法です。
塩化アルミニウム液
局所性多汗症の治療の第一選択肢としてあげられるのは、塩化アルミニウム液の治療です。薬剤を直接患部に塗り込み、汗の出口(汗腺)にふたを作って、汗が出てこないようにする治療方法です。 | |
おすすめ度 |
治療できる部位
手の平、足の裏、腋(ワキ)、頭部
治療方法
就寝前に塩化アルミニウム液を直接患部に塗り込みます。
睡眠中に薬が浸透し、汗腺の出口にふたが作られます。
効果
個人的には、かなり効き目があると感じました。(手汗、足汗)
また個人差がありますが、しばらく効き目が持続します。(汗腺にふたがされ効果が出ている期間は、薬を塗り込まなくても数日は汗が劇的に減り効果が持続します)
アルミニウムの濃度にもよりますが、20%濃度のものであれば、早ければ翌日には効果を実感でき、また通常1週間ほどの連続使用により効果を実感できる方がほとんどです。
メリット
- 比較的すぐに効果が感じられやすい。
- 薬代自体がそこまで高くない(約1000円前後)
- 薬局やAmazon(アマゾン)等の通販で入手ができる塩化アルミニウム配合薬もあるので、比較的入手しやすい。
デメリット
- 薬の成分が強いため、肌にかゆみやかぶれが出やすい。
(特にワキは元々肌が弱い部分なので、濃度を薄める等の調整が必要) - 一時的に汗を止めているに過ぎないので、完全に多汗症は完治しない。
- 継続的に治療を進める必要がある。
総評(まとめ)
多汗症にお悩みの方は、まずは塩化アルミニウム液の治療から初めてください。
どの部位にも使用ができ、ある程度の効果を感じられやすいので、非常にオススメです。
できれば病院で処方された塩化アルミニウム液の使用をお勧めしますが、近くに病院がなかったり、忙しいために受診ができないような場合には、薬局や通販で購入できるものもあるため、すぐに汗対策をすることが可能です。
アルミニウムの濃度が濃い薬液の方が効果が高く得られますが、その分かゆみが出たり、かぶれやすくなるため、肌の調子にあった濃度の塩化アルミニウム液の使用をおすすめします。
また、塩化アルミニウム液の効果的な使用方法や市販薬の紹介はこちらの記事をご覧ください。
塩化アルミニウム液の治療を実際に行った筆者の目線で、まとめてみました。
是非、参考にして頂ければ幸いです。
イオントフォレーシス療法
水道水に患部を浸し、弱い電流を流すことで、汗腺の穴を小さくすぼめることにより、発汗量を抑える効果がある治療方法です。また、欧米では多汗症の治療に広く一般的に取り入れられている治療法です。 | |
おすすめ度 |
治療できる部位
手の平、足の裏
治療方法
手の平、足の裏を水道水の入った容器の中に浸し、15mA程度の弱い電流を約20分~30分ほど流します。
効果
多汗症患者の約7割の人に効果が実感されているようです。
ただし1回のみだと効果はあまり感じられず、継続治療を行わないと効果が表れないため、週に1~2回の通院が必要。
10回程度治療をすると、効果が実感できるケースが多いようです。
メリット
- 薬物を使わない治療のため、ほとんど副作用が見られない。
- 保険診療の治療なので、病院での1回の治療代金は約600円前後と安い。
デメリット
- 効果が出るまで、時間がかかる。
- 電流を流すため、ペースメーカー使用者には治療ができない。
- まれに赤みやかゆみが出る場合がある。
- 継続性はあまりないため、継続治療が必要となる。
総評(まとめ)
個人的には、あまり有効な治療方法ではないと感じています。
イオントフォレーシスの設備がある病院が生活圏内にあればまだいいのですが、筆者の場合は近くに病院がなかったため、設備のある病院までの通院が大変でした。
また、効果が表れるまでは時間がかかるため、根気強く継続していくことが大切です。
イオントフォレーシスの継続治療を希望される場合は、家庭用の機械を購入するのが現実的かと思います。
プロバンサイン(内服薬)
自律神経の交感神経の作用を弱める薬で、「汗をかけ」と指令を出している交感神経の情報伝達をカットするという内服薬です。また、プロバンサインは日本で唯一多汗症の薬として認可が下りている薬です。 | |
おすすめ度 |
治療できる部位
全身(全身多汗症の場合でも治療可能)
治療方法
汗を止めたい1時間前に内服する。
効果
プロバンサインは全身の発汗を抑える効果があるとされていますが、局所性多汗症の部位別の効果については、顔面や頭部からの発汗にはかなり高い効果が期待されますが、手の平、足の裏、腋(ワキ)からの発汗にはかなりの個人差があり、効果が高い人とあまり効果がない人がいるようです。
効果が高い場合は、服用後、約1時間~5時間程度は汗が抑えられます。
メリット
- 保険診療での購入が可能(14日間(42粒)の処方で自己負担590円 ※筆者経験による)
- 効果が高い人には、即効性がある。
- 通販でも取り扱いがある。
デメリット
- 薬の副作用として、口の渇きや眠気、便秘などの症状がでることがある。
- 前立腺肥大、緑内障の方は内服できません。
- 全身の汗が抑制されるので、気温が高い場合は熱中症の症状が出ることがある。
- 病院によっては、なかなか処方してくれないケースがある。
総評(まとめ)
顔面・頭部多汗症の方は、効果の高い内服薬のようなので、試してみる価値が高いと感じますが、その他の部位でお悩みの方も一度は試してみることをオススメします。
ただし、副作用もある薬ですので、服用の際は十分に気を付けてください。
多汗症の診療科目がある皮膚科でしたら、処方してくれる可能性が高いですが、専門病院以外での処方はされにくいようです。もし処方箋を希望されている場合は、専門病院への受診が好ましいでしょう。
筆者の体験で言うと、残念ながら、手汗・足汗での効果はほとんど得られませんでした。
ボツリヌス毒素療法(ボトックス注射)
ボツリヌス療法は、注射薬で交感神経から伝達される信号をブロックして、過剰な発汗を抑える治療方法です。 腋(ワキ)については、保険治療が可能なので自己負担が少なく済みますが、その他の部位(手の平、足の裏、頭部)については現在保険治療が認められておらず、自費診療となるため、治療費が高額になっています。 |
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おすすめ度 |
治療できる部位
手の平、足の裏、腋(ワキ)、頭部
治療方法
患部に直接注射を施します。
効果
通常2~3日で効果が現れ、約3~9か月ほど持続します。
効果の程度や持続期間は、かなりの個人差があるようです。
特に重症の場合は持続期間があまり期待できないという報告があがっています。
メリット
- 腋の多汗症は保険診療が可能なため、経済的負担が少なく、かつ効果も期待できる。
- 一度注射を受けると、一定期間効果が持続する。
- 重篤な副作用がない。
デメリット
- 手の平、足の裏、頭部からの多汗症には保険適用がされず、自費診療となり、経済的負担が大きい。(目安:約10万円~ 病院により料金が異なる)
- 手の平、足の裏、頭部への注射は、かなりの痛みを伴う。
- ボツリヌス菌注射後は、女性は2回の月経を経るまでは必ず避妊が必要。
(妊娠中の投与に関する安全性が確立していないため) - 効果が一定期間のみ。
総評(まとめ)
注射をすれば、一定期間汗を抑えることができるため、効果がある期間は汗のことを気にせず生活が送れるのは、理想的です。
しかし、腋(ワキ)以外の部位は保険適用が認められておらず、自費診療になります。
目安として約10万円~という治療費のため、経済的負担がネックとなり、継続してボツリヌス毒素療法を多汗症治療として選択が出来るかが疑問です。
症状完治のための治療方法
症状完治のための治療方法とは、その漢字の通り、局所性多汗症を「完治」させるための治療方法のことを指します。
多汗症を発症していた部位は完治させることができますが、その分、かなりの高リスクとも言える副作用が出る可能性が高い治療方法です。
内視鏡手術(ETS手術)
内視鏡外科手術(ETS手術)とは、汗を出せと指令を出している交感神経自体を遮断し、脳に信号を送らせないようにする手術のことです。 局所性多汗症は、この交感神経が何らかの理由により失調し、異常な量の汗を出せと脳に指令を出している病気です。つまり、この交感神経自体を遮断してしまえば、異常発汗が止められるという、多汗症の根治が可能な治療方法になります。 |
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おすすめ度 |
治療できる部位
手の平、腋(ワキ)、頭部
治療方法
皮膚に1㎝前後の小さな傷をつけ、そこからそこからカメラのついた細い管を入れてモニターを見ながら行う手術。
麻酔は全身麻酔になるが、手術自体は10分~30分ほどのため、日帰りでの手術が可能。
効果
手術を行った部位は、ほぼ100%発汗が止まります。
メリット
- 確実に汗が止まる
- 日帰り手術も可能なため、日常生活にあまり支障を来すことがない
- 保険診療が可能
デメリット
- かなりの確率で代償性発汗が引き起こる。
- 手術をした部位は汗をかかなくなるため、乾燥やひび割れになることが多い。
- 現在足の裏については、日本国内ではETS手術が受けらる病院がない。
総評(まとめ)
このETS手術は、保険診療が適用されており、自己負担額は約10万前後です。しかし、副作用として、かなりの確率で代償性発汗が起こります。
代償性発汗とは、手術をした部位の汗が止まる代わりに、胸や背中、内腿など、今まで異常発汗が認められていない部位からの発汗量が増えることです。
どれぐらい汗の量が増えるかについては個人差があり、衣服が汗でびっしょり濡れるほどの酷い症状になり得るケースもあります。
また、一度ETS手術を行った部位の神経は元に戻すことは出来ないため、代償性発汗の症状が酷い場合などは、手術を受けたこと自体を後悔する人も多くいる治療方法であるということも理解すべきでしょう。
ETS手術は最後の手段 症状緩和治療が現実的か
汗が止まるのだったら、ETS手術を受けたい!と思うのは、多汗症患者であれば誰しもが思うことだと思います。しかし、ETS手術はかなりのリスクがあることを理解しなければいけません。
多汗症は今だにはっきりとした原因が解明されておらず、画期的な治療方法も確立されていない病気の一つです。
多汗症が治るのだったら、どんなデメリットがあろうと関係ない!絶対治したい!と思う方もいるかもしれません。しかし、あなたの今後の人生に大きくか関わることですので、冷静になり判断することも必要です。ギャンブルのように、イチかバチかの選択はおすすめできません。
症状を緩和する治療法は、継続して治療が必要なため、少々手間に感じることもあるかと思いますが、症状を緩和し、多汗症と上手に付き合いながら毎日の生活の質を向上させていくという道もあると思います。
多汗症の症状レベルや、悩みの原因、ストレスの大きさによって、ご自分にあった治療方法の選択を慎重に行っていきましょう。